No.207新着 牡丹灯籠 幽霊の恋と仇討ちを編んだ長編
三遊亭円朝が幕末に作ったとされる長編の続き物で、中国の「牡丹灯記」を浅井了意が翻案した話を下敷きにする。幽霊のお露と新三郎の筋に、孝助の仇討ちと伴蔵夫婦の悪事が絡む。1884年に若林玵蔵の速記で本になり、歌舞伎や映画にもなった。
本文と出典
あらまし
「怪談牡丹灯籠」は、三遊亭円朝が作った長い続き物の噺である。題は幽霊の怪談だが、中身は一本の怪談ではない。死んだ娘が恋しい男のもとへ通う筋と、忠義な奉公人が主人の仇を討つ筋、欲に負けた下男夫婦が落ちていく筋が、何夜にもわたって交互に語られる。
円朝その人については別の記事(id 3・91)にゆずる。ここでは噺そのものの成り立ちと、どこが今も演じられているかに絞る。
主なできごと
・1666年 浅井了意の「伽婢子(御伽婢子)」が刊行され、巻三に中国の「牡丹灯記」を翻案した話が入る
・1861〜1864年ごろ 円朝が「怪談牡丹灯籠」を作ったとされる(円朝23〜26歳ごろ)
・1884年 若林玵蔵の筆記による速記本が東京稗史出版社から出る
・1892年7月 三代目河竹新七らの脚色で歌舞伎「怪異談牡丹灯籠」が歌舞伎座で初演される
・1968年 山本薩夫監督の映画「牡丹燈籠」が大映の配給で公開される
原話をたどる
話の源は、明代の中国の文人、瞿佑の小説集「剪灯新話」に入っている「牡丹灯記」である。幽霊の美女と生きた若者の恋を描いた短い怪異譚だ。
これを日本の話に移し替えたのが、江戸前期の仮名草子「伽婢子」である。作者の浅井了意は説教僧とされ、人名や土地、風俗を日本のものに置き換えた。円朝はこの了意の「牡丹灯籠」を下敷きにした。
ただし円朝は翻案をなぞっただけではない。日本大百科全書は、深川の米問屋に伝わる怪談や、牛込の旗本の家で聞いた実話も材料にしたと記す。幽霊が近づくのを下駄の「カランコロン」という音で知らせる工夫は、この噺で有名になったという。
あらすじの骨組み
旗本飯島平左衛門の娘お露は、浪人の萩原新三郎に思いを寄せ、焦がれ死にする。死んだお露は女中の米を連れ、牡丹の灯籠を提げて毎夜新三郎を訪ねてくる。
異変に気づいた周りの者が新三郎にお札を貼らせ、幽霊を家に入れないようにする。ところが下男の伴蔵は、幽霊から金を受け取る取引をして、お札をはがしてしまう。新三郎は命を落とし、伴蔵と女房のお峰は手にした金で土地を離れ、商売を始めるが、やがて悪事が明るみに出る。
もう一本の筋は飯島家の中で起こる。平左衛門の妾お国が源次郎という男と密通し、主人の殺害をたくらむ。忠義な奉公人の孝助は、相手を討とうとして誤って主人を刺し、やがて主人の素性と自分の父の死にまつわる因縁を知る。孝助は長い旅の末に仇を討ち、飯島家を立て直す。
二つの筋は、人の縁と金への欲でつながりながら並んで進む。
高座と舞台での広がり
コトバンクの世界大百科事典は、円朝がこの噺を22夜にわたって寄席で口演したと記す。今の高座で通して演じることはまれで、一晩に一場面を抜き出してかけるのが普通である。中でも新三郎の家のお札を伴蔵がはがす「お札はがし」がよく知られる。五代目古今亭志ん生の録音集には「お露新三郎」と「お札はがし」が分けて収められている。
伴蔵夫婦の後半も独立してかけられる。六代目三遊亭円生の録音集には「栗橋宿」が、八代目林家正蔵(彦六)の録音集には「幸手堤」が入っている。
芝居では、1892年に五代目尾上菊五郎が孝助・伴蔵・米の幽霊を演じ分けて大当たりをとったとされる。歌舞伎では伴蔵とお峰の夫婦が見どころとして受け継がれ、夏の芝居の定番になった。映画は1955年の東映版、1968年の大映版などがある。
名演の系譜
円朝のあと、四代目橘家円喬、五代目と六代目の三遊亭円生、五代目古今亭志ん生、八代目林家正蔵(彦六)らが得意にしたとウィキペディアは書く。録音で確かめられるのは上に挙げた志ん生・円生・正蔵の三人の分で、彼らの間の師弟のつながりはこの記事では確かめていない。
なぜ受けたのか
1884年の速記本は、講談や落語の最初の速記本とされ、この成功のあと円朝作品をはじめ速記本が次々に出たと世界大百科事典は書く。寄席に通えない人も、続き物を読み物として追えるようになった。
寄席の側でも、続き物は客を次の晩に呼び戻す仕掛けになる。恋と怪異の筋で引き込み、仇討ちの筋で気をもませる構成は、毎晩の興行に向いていたと考えられる。
評価の分かれる点
この噺を怪談噺と呼ぶか人情噺と呼ぶかは、資料で扱いが違う。題には「怪談」とあるが、世界大百科事典は円朝が人情噺として創作したと書く。実際、幽霊が出るのは前半の一部で、分量の多くは孝助の忠義と伴蔵夫婦の欲の話である。
作った時期も、日本大百科全書は1861〜1864年ごろとし、ウィキペディアは25歳ごろの作とする。どちらも幕末だが、一年に絞れる資料は見当たらなかった。
くらさんの考察
怖いのは幽霊よりも生きた人間のほうだ、という読み方ができる噺である。お露は恋しさで通ってくるだけで、新三郎を死なせる直接のきっかけは伴蔵の金への欲だ。円朝が中国由来の恋の怪談に、江戸の奉公人や下男の暮らしを重ねたことで、怪談が人間の話に変わったのだと考えられる。場面ごとに切り出しても成り立つのは、その場面の人物にそれぞれの欲と弱さがあるからだろう。
ジージへの問いかけ
・夏の怪談といえば、テレビや映画で牡丹灯籠を見た記憶はあるでしょうか。
・幽霊のお露と、お札をはがした伴蔵と、どちらがより怖いと思いますか。
・長い続き物を一場面ずつ聞くのと、通しで聞くのと、ジージならどちらを選びますか。
出典
・コトバンク「怪異談牡丹灯籠」(世界大百科事典ほか) https://kotobank.jp/word/%E6%80%AA%E7%95%B0%E8%AB%87%E7%89%A1%E4%B8%B9%E7%81%AF%E7%B1%A0-1153075
・コトバンク「牡丹灯籠」(日本大百科全書) https://kotobank.jp/word/%E7%89%A1%E4%B8%B9%E7%81%AF%E7%B1%A0-630428
・ウィキペディア「牡丹灯籠」 https://ja.wikipedia.org/wiki/牡丹灯籠
・国立国会図書館サーチ「怪談牡丹燈籠」(三遊亭円朝演述・若林玵蔵筆記、東京稗史出版社、1884年) https://ndlsearch.ndl.go.jp/en/books/R100000002-I000000515331
・国立国会図書館サーチ「五代目古今亭志ん生名演大全集 10」 https://ndlsearch.ndl.go.jp/en/books/R100000038-I1930794
・国立国会図書館サーチ「『落語』昭和の名人極めつき72席 12 六代目三遊亭圓生」 https://ndlsearch.ndl.go.jp/en/books/R100000038-I4247751
・国立国会図書館サーチ「『落語』昭和の名人決定版 15 八代目林家正蔵(彦六)」 https://ndlsearch.ndl.go.jp/en/books/R100000038-I1784252
・青空文庫「怪談牡丹灯籠」(三遊亭円朝) https://www.aozora.gr.jp/cards/000989/card2577.html
・映画.com「牡丹燈籠」(1968年) https://eiga.com/movie/39425/
動画
・【8月の歌舞伎座】幽霊あり、ヒトコワありの怪談牡丹灯篭 三遊亭円朝の落語を歌舞伎化した舞台、坂東巳之助は尾上右近と強欲な夫婦を演じる納涼歌舞伎(産経ニュース)https://www.youtube.com/watch?v=ZUOrIKypoS4
・シネマ歌舞伎『怪談牡丹燈籠』予告編(松竹チャンネル/SHOCHIKUch)https://www.youtube.com/watch?v=jNDEcCO6T1U
関連動画
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