No.86新着 死神 ろうそくの火と医者になった男
死神に教わって医者になった男が、欲に目がくらんで命のろうそくの前に連れて行かれる噺。ヨーロッパの死神譚を三遊亭円朝が翻案したとされ、原話はグリム童話説とイタリア歌劇説に分かれる。サゲは演者によって複数の型がある。
本文と出典
あらまし
「死神」は、借金に苦しむ男が死神から病人の見分け方を教わって医者になり、成功したあとに命のろうそくの前に連れて行かれる噺である。
死を扱うが、全体は滑稽な調子で進む。笑いを交えて演じられることが多い。サゲ(落ち)はコトバンクが「しぐさ落ち」と書き、演者のしぐさで結末を見せる。
主なできごと
・明治20年代 三遊亭円朝が、ヨーロッパの死神譚を翻案したとされる
・明治30年代 三遊亭円左の口演で広く知られるようになる(コトバンクの記述)
・昭和 六代目三遊亭圓生が演出を整え、呪文などを加えたとされる(ウィキペディアの記述)
・平成〜令和 演者ごとに多様なサゲが工夫される
原話をめぐって
円朝が明治20年代に、ヨーロッパの死神譚を翻案したとされる点は、複数の出典で一致する。
原話の候補は二つある。ウィキペディアは、グリム童話の第2版に載る「死神の名付け親」とする説と、リッチ兄弟作の歌劇「クリスピーノと代母」とする説を並べ、どちらも確定していないと書く。コトバンクは、イタリアの歌劇から翻案したとする。別の解説記事は、円朝が歌劇「靴直しのクリピスノ」を翻案したとしつつ、グリム童話にも似た内容があると述べる。
ウィキペディアは、円朝が福地桜痴からこの話を聞いた可能性があるという指摘も紹介するが、確かな裏づけは確認できなかった。つまり、歌劇を元にしたという説が複数の出典に出る一方、グリム説も根強く、決着はついていない。
あらすじの骨組み
金に困って死のうとした男の前に、死神が現れる。死神は、病人の枕元にいれば寿命が尽きていて助からず、足元にいれば追い払って治せるという決まりを教え、これを使って医者になれと勧める。
男はこの見分け方で評判の医者になり、金持ちになるが、遊びに使い果たして没落する。
そこへ大店の主人が重い病で、枕元に死神がいる。男は大金に目がくらみ、布団の向きを回して死神を欺き、病人を治してしまう。
怒った死神は、男を洞窟に連れて行く。そこには人の寿命を表すろうそくが並び、男のものは消えかけている。男は新しいろうそくに火を継ごうとするが、うまくいかない。
サゲの型の違い
サゲの型は、演者によって大きく分かれる。ウィキペディアは次のように整理する。
一つは標準的な型で、男が倒れ込むしぐさで死を表す。ほかに、火の移し替えには成功するが、くしゃみやため息で消してしまう型がある。さらに、倒れたあとに起き上がって助かる型もあり、縁起の良い高座向けとされる。夢だったとする型や、男が死神の後継者になる型もある。
現代の演者は、時事ネタや恋愛の趣向を入れるなど、個性的なサゲを工夫している。台詞そのものはここでは書かない。
東西と演者の違い
今回開いた出典では、東西の違いを比べた記述は確かめられなかった。
演者ごとの違いとしては、「アジャラカモクレン」で知られる呪文は、六代目三遊亭圓生が笑いを取るために加えて定着させたとウィキペディアにある。ただし、別の資料は、呪文の由来や完成させた人物について異なる説明をしているとされ、ここは断定しない。
最後の台詞を「消えた」から「消える」に変えたのも、六代目圓生だとウィキペディアは書く。圓生の「圓生百席」では、映像がないため、すべて死神の台詞として演じられているという。
名演の系譜
コトバンクは、三遊亭円左の口演で明治30年代に広く知られるようになったと書く。ウィキペディアは、呪文や最後の台詞の変化が六代目圓生に由来するとする。
それ以外の演者の系譜や、師弟関係については、今回開いた出典では確かめきれなかったので書かない。近年の演者の動きは、今回は確かめていない。
なぜ受け継がれてきたのか
この噺の要は、死神が見えるという一つの設定と、病人の足元か枕元かという単純な決まりである。決まりが単純なので、聞き手はすぐに仕掛けを理解でき、後半の布団を回す場面のハラハラを楽しめる。
さらに、サゲの型が多く、演者の選択に幅がある。悲劇にも、縁起のよい結末にも、夢オチにも仕立てられる。ヨーロッパの話を円朝が日本の噺にした例としても知られ、翻案の面白さが、後の演者の改作を呼びやすくしたと考えられる。
確かめられなかった点
原話がグリム童話か歌劇かは、出典で割れており確定できなかった。呪文を誰が定着させたかは、出典によって説明が異なる。東西の型の違いと、師弟関係の細部は確かめられなかった。
くらさんの考察
結末が悲劇にも、助かる型にもなる噺は、聞き手の気分や季節に合わせて演者が選べる強みを持つと考えられる。「命の長さを他人が決めている」という設定が、現代の聞き手にも通じやすいのも、受け継がれる理由の一つに思える。
ジージへの問いかけ
・ジージは、「死神」のサゲで、男が助かる型と死ぬ型のどちらを聞いたことがありますか。
・ヨーロッパの話を日本の噺に直す工夫を、どう感じますか。
・命のろうそくという考え方に、親しみを感じますか。
出典
・コトバンク「死神」 https://kotobank.jp/word/死神
・ウィキペディア「死神(落語)」 https://ja.wikipedia.org/wiki/死神_(落語)
・育児情報サイトHugKum「落語『死神』はどんなオチ?」 https://hugkum.sho.jp/533285
動画
・【立川志らく】YouTubeで落語 三席目「死神」(2020.5)(ワタナベエンターテインメント【公式】)https://www.youtube.com/watch?v=vFzmJV1SRzM
関連動画
この記事を読んで浮かんだ疑問は、運営者ジージが落語QAでくらさんに質問し、答えをそこに載せていきます。