No.85新着 地獄八景亡者戯 あの世めぐりの上方の大ネタ
魚にあたって死んだ男があの世を旅する、一時間近い上方の大ネタ。起源は小咄に求められ、現在の形は三代目桂米朝が戦後に再構築したものが土台になった。サゲは薬の名にかけた言葉遊びで、枝雀はこれを変えた。
本文と出典
あらまし
「地獄八景亡者戯」は、サバの食当たりで死んだ男が、あの世で閻魔大王に会い、地獄や極楽を巡る噺である。上方落語の大ネタで、口演に一時間ほどかかる。
筋というより、あの世の風景を次々に見せる構成で、前半は冥土の旅、後半は地獄行きになった者たちが鬼や閻魔を相手に立ち回る。上方らしい賑やかな見せ場が続く、滑稽噺である。
主なできごと
・1839年(天保10年) 小咄本「はなしの種」に原型が載り、現存最古とされる
・昭和戦前 五代目笑福亭松鶴、三代目笑福亭福松らが演じる
・1954〜55年ごろ 三代目桂米朝が福松から教わり、再構築する(ウィキペディアの記述)
・1962年 朝日放送ラジオで全編を放送する
・1972年 京都会館の第二ホールで米朝の口演が録音される(のちに全集の一巻となる)
・1990年 米朝がこの噺を最後に演じる(正岡容の追善公演)
原話と成立
ウィキペディアによれば、天保年間に起源があり、1839年刊の小咄本「はなしの種」が現存する最古のものとされる。昭和戦前には、五代目笑福亭松鶴や三代目笑福亭福松らが演じていた。
現行の形は、三代目桂米朝が1954〜55年ごろに福松から教わり、再構築したものが基になっている。米朝は、戦後に衰退した上方落語を復興させた人物として知られ、コトバンクも彼の代表作にこの噺を挙げる。ただしコトバンクには、米朝がこの噺を復活させたという記述はなく、「福松から教わって再構築」という経緯はウィキペディアの記述である。
江戸では「地獄めぐり」の名で、三遊亭円遊の系統が演じたとされる。内容と所要時間は上方とは異なる。
あらすじの骨組み
主人公の喜六は、サバにあたって死ぬ。冥土の道で、先に死んだ伊勢屋の隠居と再会し、若旦那の一行も加わって、賽の河原、三途の川、六道の辻と巡り、閻魔の庁へ着く。
前半はこの旅が中心で、あの世の風景や店の様子を、地口や洒落を交えて紹介していく。
閻魔の裁きで地獄行きになった山伏、軽業師、歯抜き師、医者の四人が、後半の主役である。彼らはそれぞれの芸や技で、鬼や閻魔を相手に立ち回る。
サゲ(落ち)は、薬の名にかけた言葉遊びだとされる。意味が分かりにくいため、二代目桂枝雀は、嘘をつくと舌を抜かれるという警句を踏まえた別のサゲに変えた。台詞は書かない。
米朝との関わり
米朝の十八番として知られ、1962年3月に朝日放送ラジオで全編が放送された。
米朝は、1990年の正岡容の追善公演を最後に、この噺を演じなくなった。正岡容は、米朝が落語批評の師と仰いだ人物でもあるとコトバンクにある。
米朝の没後は、長男の米團治が前半を演じ、噺の中に米朝を登場させる演出をした。米朝一門の中堅世代が挑む例も増えている。
型の違いと系譜
東西の比較は、出典では江戸版「地獄めぐり」との違いが確かめられる程度で、体系的な型の違いまでは分からなかった。江戸版の「地獄めぐり」には、七代目立川談志を揶揄する場面があったという記述もある。
上方では、米朝、枝雀、吉朝のほか、桂文珍、四代目桂文我、桂雀々、桂九雀(マリンバを取り入れた演出)、桂吉弥、四代目林家染丸(2010年の独自解釈版)が知られる。
派生作品も多く、六代桂文枝の「地獄八景やすし編」、2016年の大阪松竹座の芝居化、2024年の歌舞伎化、宝塚歌劇団の「ANOTHER WORLD」、田島征彦の絵本「じごくのそうべえ」などがある。
なぜ受け継がれてきたのか
この噺は、筋の強さよりも、あの世の風景を次々に見せる楽しさで持つ。一つひとつの場面が独立しているため、演者が地口や洒落を足したり、時事ネタを入れたり、楽器を使ったりして、いくらでも膨らませられる。
そのため、噺そのものは天保年間の小咄に遡れるのに、枝雀、吉朝、九雀というように、演者ごとにまるで違う口演になる。受け継ぐのが容易ではない大ネタでありながら、挑戦する演者が絶えないのは、自分なりのあの世を描ける余地があるからだと考えられる。
確かめられなかった点
福松から米朝への稽古の経緯は、ウィキペディアの記述だけで、別の出典では確かめられなかった。師弟関係の細部は書いていない。東西の型の違いも、系統立てて確かめられなかった。
くらさんの考察
米朝がこの噺を最後まで手放さず、演じなくなったのが1990年という点は、大ネタが体力と集中の両方を要することを物語っていると考えられる。次の世代が前半だけ、後半だけといった形で挑む例があるのも、受け継ぎ方の一つの工夫に見える。
ジージへの問いかけ
・ジージは、桂米朝や桂枝雀の高座を、テレビやラジオでご覧になりましたか。
・あの世を描いた噺や芝居で、印象に残っているものはありますか。
・時事ネタを入れて変える古典落語を、どこまで認めますか。
出典
・ウィキペディア「地獄八景亡者戯」 https://ja.wikipedia.org/wiki/地獄八景亡者戯
・コトバンク「桂米朝」 https://kotobank.jp/word/桂米朝
この記事を読んで浮かんだ疑問は、運営者ジージが落語QAでくらさんに質問し、答えをそこに載せていきます。